雨。 マリクは帰ってこない。

「・・・・・・・何で、あんなこと言っちゃったんだろ」

きっかけはちょっとした喧嘩だった。

いつもならマリクが拗ねて、仕方ないな、って感じで許してやってたのに。

『マリクなんて・・・・・嫌いだっ!!』

 言った時には、もう遅くて。

マリクは目を見開いて驚いてたけど、しばらくして『・・・そうかよ』って呟いて。

そして、出ていってしまった。

「・・・・はぁ」

夕方になって寒くなれば、戻ってくると思ってた。

空が曇っていて、もうすぐ雨が降ってくることも分かってた。

あーもう、どうして追いかけなかったんだろ。

あれが自分の本心なわけない、ちゃんと分かってたのに。

いつの間にか雨が降ってきて、ますます後悔した。

今ごろマリクはどうしてるんだろうか。

雨に濡れて風邪ひいたりしてないだろうか。

それとも、誰かのところに転がり込んでたりして。

どちらのことを考えても、胸がズキズキ痛んだ。


 マリクが出ていって2時間。

やっぱり帰ってくる気配はない。 雨足は強くなるばかり。

・・・・・・何で、私はマリクと一緒にいたいって思ったんだろう。

いつの間にか一緒にいることが当たり前になってて、その理由を忘れてたのかもしれない。

「・・・・・・私が、決めたのに」

私が、マリクの居場所になるって。

闇も、罪も全部受け入れるって。

それなのに、私は・・・・・!!

『ピカッ』

「うっ・・・・」

ついに雷まで落ちてきやがった。 うぅ、雷は苦手なのに。

でも、今はそんなこと言ってらんない。

行こう。 ・・・・・マリクを、探しに。


 『ザァー・・・・・・』

「・・・・・寒い」

でも、マリクはきっと、もっと寒い思いをしてる。

マリクはもとから寒さに弱いから、下手したら凍えてる。

早く、見つけなくちゃ・・・・・・・

水たまりを踏んで、水が跳ねる。 ズボンはもう水浸しになって、重い。 走りにくい。

それでも、早く。 例えマリクがもうこの町にいなくても、私は見つけてみせる。

雨傘も意味を成さなくなってきて、全身が雨に濡れた。

頭が痛い。 鼻をすすりながら痛みをこらえる。

こりゃ帰ってきたら2人とも風邪で寝込んじゃうかもな、と少し笑った。

「はぁ、はぁ・・・・・」

道行く人は皆私を見てる。 でもそんなの構うもんか。

今は走る。 マリクを見つける。 それだけ。

 ・・・いつの間にか、公園に着いた。

子供が遊ぶような遊具がたくさんある公園は、この辺りではここだけだ。

まぁもちろん、人影はない。

「あ・・・・・・・」

そういや、昔マリクとここに来たことがある。


『小さい頃、遊んでる途中に雨が降ってきたことがあってね―』


私は辺りを見回した。 あれは、あれはどこ?

「・・・・あった!」

私はそれに向かって走った。


『この穴の空いてる遊具なんだけど―』


『中に入るとさ、雨風がある程度凌げるわけ。 だからここに入って―』


神様マリク様、お願いします。 どうかここに・・・・・・!


『いつも・・・母さんが迎えに来るのを待ってたんだ』


 「・・・・・マリク」

「・・・・・・・・・・・」

彼は、いた。

「マリク・・・・・ごめん・・・・・・・ごめん、ね・・・・・・」

「なっ・・・・・泣いてんじゃねぇよ・・・・・」

マリクの声は掠れてて、唇も紫色だった。

空気は冷たい。 私よりも長い時間こんな雨に晒されて、2時間もの間私を待っていたっての?

「・・・・・寒かった、よね・・・・・ホントに、ごめん・・・・・」

葉っぱや枝が落ちている遊具の中に入り込んで、マリクに抱きついた。

マリクの身体は酷く冷えていた。 私の身体も冷えきっていた。

でも、やがてじんわりと体温が伝わってくる。

私の背中にも、マリクの体温を感じた。


 「・・・・帰ろう? 帰ったら、コシャリ作るから」

「・・・・・あぁ」

外に出ると、もう大分雨足は弱まってきていた。

走ってくる途中で公園に投げ出してきた傘を拾い上げて、私とマリクは一緒に家路についた。


 嫌いだなんて言ってごめん、マリク。

今までも、これからも・・・・・・ずっと大好きだから!