嗚呼、今日は月が綺麗だ。


「・・・・・・・でも、つまんない」


『社長令嬢』・・・ここの養女になる前は、その響きにどれだけ魅力を感じていたことだろう。

実際なってすぐはとても幸せだったと思う。 『お嬢様』なんて呼ばれてちょっと照れてた。

毎日の勉強も全く苦じゃなかったし、美味しいモン食べれるし、屋敷はひたすら豪華だし。

でも・・・つまんない。 世間から隔離されたここは、あまり人と関わることがない。

義父さんとたくさんの使用人。 もう全員の顔と名前と誕生日と仕事内容を覚えてしまった。

社交界に顔を出しても、皆私のことを『社長令嬢』としか見てないし。

このまま私は周りが決めた婚約者と結婚して、そして会社を継いで、また自分の子供にこういう思いをさせるんだろう。

嗚呼、今日も月が綺麗だ。









少女盗難事件 1








 翌日、義父さんに呼ばれて広間に来た。

、彼は今日からこの屋敷で働く者だ」

「初めまして、お嬢様。 ハイエと申します」

「ハイエか。 私は、よろしく」

「はいっ、よろしくお願いします」

優しそうな人だ。 でもそういう感情まで発展することなんてないだろう。

顔と名前と誕生日と仕事内容を覚えて、それで終わり。

私が社長だったら分かんないけど、どうせ身分がどうとか、ってね。

「ハイエ、君には・・・そうだな、の身の回りの世話をしてもらいたい」

「はい、承知いたしました」

「・・・・えっ」

「つい最近この子の世話係が結婚して、仕事をやめたんだ。 まぁよろしく頼むよ」

ちょ・・・予想外の展開。

「ではお嬢様、えっと・・・この後3時からピアノのお稽古ですね。 行きましょうか」

「あ、あぁ・・・・・・」








 その後1時間ピアノを弾いて、しばらくは自由時間だ。

どうやら私は普通より飲み込みが早いらしく、こういう勉強とかは少しの時間で済むらしい。 普通だと思うんだけどなぁ。

「お嬢様、紅茶など如何ですか」

「あ、私紅茶よりココアが好きなんだ。 あと、キャラメルマキアートとか」

「すみません、ではどちらをお持ちしましょうか」

んー・・・今は何となくココアの気分。

「じゃ、今日はココアで」

「かしこまりました」

普通お嬢様っていうと紅茶なんだろうけどね。 淹れ方も上手い人がやるものだし。

でも私は甘いのが好きだから。 ・・・ぶっちゃけ一番好きなのは、ジュース。

「お待たせしました、どうぞ」

「サンキュ」

・・・・・あー、美味い。

「あれ、ハイエの分は?」

「は・・・私、ですか?」

「ダメダメ、ちゃんと自分の分も用意しなきゃ。 私が作ってくるから」

「お、お嬢様、そのような・・・」

こういう時は私を止めらんないってことも覚えてもらわなきゃな。

「はい、どーぞ」

「申し訳ございません・・・では、いただきます」

「・・・あ、ココアは嫌いだった?」

「いえ、好きですよ」

ならよかった。 でもたまにはハイエの淹れた紅茶とかも飲んでみたいかも。

「私、こうやって人と話すの、好きなんだよね。 だからお茶とか淹れる時は2人分。 いいね?」

「はい」

その後は他愛もない話をして、それからディナーをとって、私の1日は終わった。

・・・・いつもより、楽しかったかもしれない。











 「出てこい、ソラ」

今日は天気がいい。 ソラと庭で遊ぶことにした。

ソラは、私が小さい時から一緒だった。

小さなオスのトゲピーだったソラは、私がここに来る前からのただ1人の親友。

私がトゲキッスのソラと一緒にいるのを見て、義父さんがひかりのいしをくれたのはよく覚えてる。

「そのトゲキッスは、ソラというのですか?」

「そ、私の親友」

「・・・・・そうですか」

ハイエはソラを撫でながら微笑んだ。 ソラが私以外に懐くとは、珍しい。

「ところで、お嬢様。 その指輪・・・いつもつけていますね」

「あぁこれ? この前・・・私の17歳の誕生日にもらったんだけどさ、何か結構値打ちモノらしいよ」

「そうなんですか。 素敵な指輪ですね・・・特にその青い宝石。 まるであなたの瞳のようだ」

「・・・はは、煽ててもなーんも出ないっての」

今まで何度も言われてきた言葉が、何故か今だけ胸に響いた。

「どうかしましたか?」

「あ、いや・・・・何でも」















 ある夜。

「お嬢様、そろそろお休みになられては?」

「あぁ、ハイエ。 そっかーもうそんな時間か」

私はゲーム機の電源を切った。

「・・・・・お嬢様・・・・・いや、

「えっ」

急にハイエの声色が変わった。 ・・・・・って、『 』!?

と思ったらいきなり『バッ』って音がして、目の前に派手な格好をした男が現れた。

「・・・・・・え、嘘、ハイエ!?」

「残念ながら、俺はハイエではない。 俺の名は、バンナイ」

「バン、ナイ・・・・・? ハイエは・・・」

「あぁ、お察しのとおり。 ハイエの正体は俺だ」

・・・・目の前が、暗くなりそうだった。

でも、何故かすごく見とれてしまっていた。 この人は、私を『社長令嬢』なんて目で見てない。

「あんた、何者? どうしてここに・・・・」

「・・・・本当は、その指輪を盗みにきた。 俺は怪盗だからな」

「か、怪盗って・・・・じゃぁ最初からそのつも「どうした 、何かあったか!!?」

ちょ、義父さん!? 何でここに・・・私が叫んだから?

何にしろ最悪のタイミングじゃねーかこのヤロー!!

、入るぞ・・・・・・!? お前は!?」

「フン・・・・・邪魔が入ったか」

バンナイさんは私の手に何か握らせて、手の甲に口付けしてから、手を離した。 え、指輪は?

「俺は怪盗バンナイ。 ハイエとしてこの屋敷に忍び込ませてもらった」

「バンナイ・・・聞いたことがあるぞ。 確か今は解散したマグマ団とかいうのに、『千の顔を持つ男』というのがいたが、お前が・・・!?」

「あぁ、そうだ。 今はこのとおり怪盗だがな」

いつの間にか窓が開いてる。 かすかに風を感じた。

「俺はもう一度この屋敷に戻ってくる。 その時は・・・・貴様の一番大切なものを盗んでいく」





 バンナイさんの背中にジェット噴射みたいな機械がついてる。 まさか、このまま・・・・?

「・・・・・またな、

「えっ・・・・ちょ」

「では諸君、さらばだ!!」

次の瞬間、バンナイさんは窓から飛び立っていった。

「ハハハハハ!!」

風で吹き飛ばされそうになったのを、義父さんが受け止めてくれた。

・・・・そして、次の日から『ハイエ』は現れなくなった・・・・

















 翌朝。 警察が屋敷に来て捜査をしにきた。

残念ながら、『ハイエ』の住所などの情報は偽者で、アテにならなかった。

さん、何か気がついたことはありませんでしたか?」

「あ・・・ジュンサーさん」

このジュンサーさんは、ずっと怪盗バンナイを追っているらしい。

「バンナイさ・・・・じゃなかった、バンナイが飛び立つ時・・・これを握らされたんですけど」

「これは・・・・怪盗バンナイのカードだわ」

「カード?」

「えぇ、怪盗バンナイは、犯行現場に必ずこのカードを残していくの」

でも・・・とジュンサーさんが呟いた。

「この屋敷からは何も盗まれてないわ。 必ずしも盗んだ時に置いていくのではないようね」

・・・・・・何となく、バンナイさんがこのカードを置いていった意味が分かる気がする。

悔しいけど・・・私はバンナイさんに一目惚れしたのかもしれない。

いや、ハイエの時から・・・ま、それは分からないけど。

「奴はまたこの屋敷に来ると言っていた。 これは恐らく、犯行予告ね」

「ジュンサーさん、奴が盗むとしたら、の指輪かと」

義父さんに言われて、ジュンサーさんも私の指輪を見た。

「怪盗バンナイは、元々この指輪を狙って屋敷に忍び込んだ・・・可能性は高いですね」

「はい」

「安心してください。 怪盗バンナイはじきにこの屋敷に現れる・・・それまで私たちが全力を尽くし、指輪を守ります」

「ありがとうございます」

私は、その会話を黙って聞いていた。



























 もう一度、バンナイさんがここに来る。

それだけでとても嬉しかった・・・・誰にも言えなかったけど。










































































「奴は大変なものを盗んでいきました。 あなたの心です」
リボンカップの話でバンナイにベタ惚れ、夢を探すも全く見つからなかったのでムカついて書きました。
後悔はしてません、いやむしろ満足。 満足するしかねぇ! ・・・・ほどじゃないけど。
需要は全く気にしてません、自己満足です。
何でバンナイ夢ないんだろ。 出番少ないから?
珍しく一気に書けました。 やっぱ思いをメモ帳にぶつけるって大事だわ(ぇ
『バンナイさん』は私の趣味です。